橋梁メンテのよくある質問
「橋」の意味を調べると、
辞書には「交通の便をはかるため、川、運河、鉄道線路、道路などの上にかけ渡す構築物。」などと書かれています。
もう少し詳しく見ていくと、
「橋梁とは、道路、鉄道、水路等の輸送路において、輸送の障害となる河川、渓谷、湖沼、海峡あるいは他の道路、鉄道、水路等の上方にこれらを横断するために建設される構造物の総称である。」(土木学会編「土木工学ハンドブック」第29編「橋梁」の定義)とされています。
道路法第42条に『道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。』と定められています。
何より大切なのは、人や物を渡す機能であり、構造物として安全・快適で、長期間使用できることが求められています。
橋には、様々な構造があります。 有名な橋では瀬戸大橋、明石海峡大橋、レインボーブリッジなどがあります。 橋の構造には種類があり、橋の長さや条件によって構造形式が違います。 代表的な6種類と、構造材料により分類した6種類の全12種類があります。
種類 | 説明 |
---|---|
プレートガーター橋 | 桁(けた)をかけ、その上に床版を貼ることで通行可能にした桁橋です。 |
ラーメン橋 | 桁の途中で斜め柱を設け、桁と斜め柱を剛接合することより強度を高めた構造です。 |
トラス橋 | 部材を三角形になるよう接合した骨組みで造る橋です。 |
アーチ橋 | アーチ形状の骨組みを架けてアーチにすることで、桁より強くなります。 |
斜張橋 | 大規模な橋で採用される斜張橋は、路面を受ける桁をケーブルによって吊る橋です。 |
吊橋 | 空中に張り渡したケーブルから吊材を介して桁を吊った構造です。 |
木橋 | 古くから残る木橋は現在でも修復を続け残っている場合が多くあります。 |
鋼橋 | 鋼材を用いた橋で広く普及したタイプ。普段目にする橋は主に鋼橋です。 |
鉄筋コンクリート橋 | Reinforced Concrete=鉄筋で補強(Reinforced) RCのため鉄筋腐食の恐れはありますが、振動の少なく、耐食性にも優れます。 |
PC橋 | プレストレスト(Prestressed)コンクリート(Concrete)の略 PCは引張側にプレストレスを導入した構造でPC桁を用いた橋のことです。 |
アルミ橋 | 橋は、腐食しやすい環境のため、鋼や木は定期的なメンテナンスが必要です。アルミは耐食性に優れ、軽量・高強度のため、鋼に代わる材料として期待されています。 |
FRP橋 | 繊維で強化されたプラスチックを使用した橋で、鋼、アルミよりも軽量・高強度です。腐食がなく、メンテナンスフリーのため、今後の活用に期待が高まる橋です。 |
平成25年の道路法の改正に伴い、道路橋や横断歩道橋などの定期点検要領が定められ、必要な知識及び技能を有する
者が、近接目視により5年に1回の頻度で点検を行い、結果を診断して健全から緊急措置段階までの4段階に分類する
こととされました。
維持修繕には、劣化が進行してから修繕を行う「事後対応」型ではなく、損傷が軽微なうちに修繕などの対策を
講じる「予防保全」型の維持・修繕の実施が求められています。
老朽橋が増えていくなかで、橋梁の損傷が大きくなるまで修繕を先送りしていると、将来、大規模な修繕や
架け替えで膨大な更新費用がかかるため、橋梁の定期点検を行い、損傷が軽微なうちに補修や補強を行って橋梁の
寿命を延ばしていく、というメンテナンスサイクルと 長寿命化の仕組みが構築されなければなりません。
補修と補強のちがい
1.補修とは、
劣化した部材や構造物の今後の劣化進行を抑制し、耐久性の回復・向上と第三者影響度の 除去または低減を目的
とした対策のことを言います。
補修では、耐荷性の回復・向上は目的としていませんが、 供用開始時に構造物が保有していた水準まで力学的な
性能を回復させる対策も補修に含まれます。
2.補強とは、
部材や構造物の耐荷性や剛性などの力学的な性能低下を回復または向上させることを目的とした対策のことを
言います。力学的な性能低下は、材料の劣化や過大な荷重の負荷によって引き起こされます。
なお、供用開始時に構造物が保有していたよりも高い水準まで、力学的な性能を向上させるための対策も補強に
含まれます。(土木学会編「コンクリート構造物の維持管理指針(案)」の定義より)
私たちの国土や経済、暮らしは、災害や事故などにより脅かされる危険をはらんでいます。
人命を守り、また経済社会への被害が致命的なものにならず迅速に回復する、「強さとしなやかさ」を備えた国土、
経済社会システムを平時から構築するという発想に基づき継続的に取り組むことが意味されています。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/
国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災の取り組みは、国家のリスクマネジメントであり、
強くてしなやかな国を作ること。また、ニッポンの産業競争力の強化であり、安心・安全な生活づくりであり、
それを実現する人の力を創ることです。国民の命と財産を守り抜きます。
「回復力」「復元力」または「弾力性」とも訳され、ストレスと言った外的な刺激に対する柔軟性を表す言葉。
たとえば、災害レジリエンスとは災害からの回復力を意味します。レジリエンスを考慮した橋梁長寿命化など。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/pdf/sekaihehasshin.pdf
レジリエンス・ジャパンを 世界へ発信!
国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災の取り組みは、国家のリスクマネジメントであり、
強くてしなやかな国を作ること。また、ニッポンの産業競争力の強化であり、安心・安全な生活づくりであり、
それを実現する人の力を創ることです。国民の命と財産を守り抜きます。
国土交通省が定めた人口減少と巨大災害に対応した社会インフラ整備のための国土整備計画のことです。
地方都市を自立した形に維持することと、巨大災害などに対応できる安全な生活環境の維持が中心の考え方です。
人口減少に対応するためのキーワードとして「コンパクト+ネットワーク」を掲げている都市計画や、
インターネットなどの情報通信技術を活用することで、各種機能を相互に結びつける「対流促進型国土」を
形成する、とされています。
ttps://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000043.html
持続的な成長を実現できるよう社会インフラが賢く使える集約型の都市のこと、とされます。
国土交通省では、(1)高密度で近接した開発形態、(2)公共交通機関でつながった市街地、(3)地域のサービスや
職場までの移動の容易さを目標としています。コンパクトシティ化は、インフラ費用の削減のみにとどまらず、
交通エネルギー消費の削減、自家用車依存からの脱却、土地の有効利用など様々な効果があり、
メンテナンスにおいては、計画的な維持管理と維持管理費の削減、二酸化炭素排出量削減にも有利である点が
あげられます。
国土交通省ホームページ コンパクト・プラス・ネットワークより
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_ccpn_000016.html
損傷した橋梁を補修や補強する際には、その損傷原因を把握し、適切な補修工法を選定する必要があります。
落橋(らっきょう、らくきょう)とは、橋が落ちる災害のことである。
一般にはあまり知られていないが、 橋梁は上部構造(橋桁)と下部構造(橋脚・橋台)との間は支承と呼ばれる
衝撃吸収構造材で点的に支持されて おり、がっちりとしたボルトや金具で固定するような、
いわゆる剛結構造とはなっていない。このため、 橋全体に地震時などに 大きな力が加わると、上部構造と下部構造に
ずれが生じ、下部工から上部工が浮き上がって橋桁がずれたり外れたりし、最悪の場合、落下してしまうことがある。
これが『落橋』という状態である。
この場合、上部構造 (橋桁)そのものは限りなく無傷に近い状態であることが多いので、落橋さえ防ぐことが
できれば、橋の修復は 比較的しやすい場合がおおい。
平成7年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、この落橋が多くみられた。
そのため、落橋防止(らっきょうぼうし)とは、大地震が発生した場合を想定して、この落橋を防ぐために、
アンカーボルトやチェーンなどを設置して橋梁に予期できない大きな力が加わった時でも橋の上部構造が橋脚・
橋台から落下するのを防止する為の装置のことである。「道路橋示方書」に基づく安全基準に従い設計される。
![]() 落橋防止設置工(1) |
![]() 落橋防止設置工(2) |
伸縮継手(しんしゅくつぎて)とは、
一般的にジョイントと呼ばれることもあり、構造体間の相互変位による影響を吸収するための部材をいう。
橋梁は伸び縮みを繰りかえすので、常に長さが変化している。 その長さの膨張・収縮を吸収するために設けられる
ものが伸縮継ぎ手と呼ばれるものである。
設置される場所は、 橋梁においては、上部構造(主桁・主構)と地上構造(橋台や道路等)の間に設置する部材の
ことである。 ジョイント(joint)もしくはエキスパンション(expansion)とも呼ばれる。
![]() 伸縮継手補修工(1) |
![]() 伸縮継手補修工(2) |
鋼橋や鋼部材の代表的な損傷原因としては、さびが集中的に発生して板厚減少が生じる腐食、鋼材の疲労による
亀裂や破断、ボルトやリベットのゆるみや破断などがあります。いくつかの道路管理者が公表している設計要領等に
示されている、鋼橋の劣化損傷に対する補修工法には 次のようなものがあります。
●塗装・防食
●ストップホール工法
●溶接部の補修
●当て板工法
●加熱矯正工法
●部材交換工法
●高力ボルト取替工
鉄筋コンクリートの橋や部材の変状の要因は、「初期欠陥」「損傷」「劣化」に分けることができます。
「初期欠陥」である、コンクリートの施工時や施工直後に発生したひび割れや豆板、コールドジョイント、
砂すじなどや、地震や衝突などによる「損傷」は、その原因に対応した補修を行います。
代表的な劣化パターンには、以下のものがあげられます。
●初期欠陥
●塩害
●アルカリ骨材反応
●中性化
●凍害
●疲労(RC床版)
前に打ち込まれたコンクリートとの継ぎ目が一体化しない状態のこと。打ち重ね部分に不連続な面が生じる。
不連続面は二酸化炭素が侵入し、中性化の進行、さらに水や酸素が供給されると鉄筋の腐食の原因となります。
連続打設をするかAE減水剤遅延形を使用します。
(運搬時間の限度はJIS A 5308/コンクリート示方書/JASS 5に規定されています)
打ち込まれたコンクリートの一部において、セメントペースト、モルタルの廻りが悪いため、粗骨材が多く集まった
空隙の多い不良部分のこと。コンクリート打設時の材料分離、締固め不足、型枠下端からの セメントペーストの
漏れにより生じる。打ち重ね時間が長くなると発生しやすい変状です。
コンクリート表面にコンクリート中の水分が分離して細骨材とともに外部に縞状に流れ出すこと。
ブリーディングの多い場合に生じ、美観上の問題とされます。
コンクリートの塩害は、海岸付近での飛来塩分や凍結防止剤の塩分などがコンクリートの内部に浸透し、
鉄筋やPC鋼材が腐食・膨張し、コンクリートにひび割れが入り構造物が損傷する現象です。
アルカリ骨材反応は、コンクリート中の水酸化アルカリと反応性骨材との化学反応により生成される
アルカリシリカゲルが吸水し膨張してコンクリートにひび割れを発生させる現象です。アルカリ骨材反応の
ほとんどはアルカリシリカ反応であるため、ASRと略されます。
コンクリートの中性化は、大気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入し、本来強いアルカリ性を示す
コンクリートのpHが低下し、鋼材表面の不働態被膜が破壊され、鋼材が腐食、膨張して、コンクリートの
ひび割れや剥離・剥落、鉄筋の断面減少が生じる現象です。
コンクリート中の水分が凍結する際の体積膨張と、融解の際の水分供給という凍結融解作用を繰り返すことにより、
コンクリートが徐々に劣化し、コンクリート表面にスケーリング、微細ひび割れ、ポップアウトが 生じる現象です。
スケーリングは、凍結融解の繰り返しによりコンクリート表面がフレーク状に剥離する現象で、
ポップアウトは 骨材の膨張による破壊で表面に発生するクレーター状のくぼみです。
コンクリート表面から発生する劣化のため、早期に顕在化します。
道路橋の鉄筋コンクリート床版は、大きな変動荷重が繰り返し加わる土木構造物の代表で、床版の支間長に比べ
床版厚が薄く、輪荷重を直接支える部材であることから、繰返し荷重による疲労の影響が大きくなっています。
鉄筋コンクリートの橋や部材を補修補強する工法の選定にあたっては、劣化の原因や状況、今後の劣化の進行や
工事中の交通影響など、様々な要因を踏まえて、特定の工法を選定し、複数の工法の組み合わせル必要があります。
代表的な補修補強工法は以下のとおりです。
●緊急対策
●橋面防水工法
●ひびわれ補修工法 (表面処理工法、注入工法、充填工法)
●表面保護工法 (表面被覆工法、表面含浸工法)
●断面修復工法 (左官工法、モルタル注入工法、吹付け工法)
●剥落防止工法
●連続繊維シート接着工法
●鋼板接着工法
●床版下面増厚工法
●床版上面増厚工法
●増桁架設工法 (縦桁増設工法)
●床版打替工法・床版取替工法
◆おすすめ書籍◆
山崎エリナ著
『インフラメンテナンス~日本列島365日 道路はこうして守られている~』/グッドブックス
土木工事の隠れた魅力を教えてくれる、とても素敵な写真集です。
土木写真のイメージをひっくり返してくれた1冊です!!
インフラメンテナンス国民会議のHPでも紹介されています。
書籍内容詳細:https://good-books.co.jp/books/maintenance/
◆おすすめ書籍◆
公益社団法人土木学会構造工学委員会 著
『これだけは知っておきたい 橋梁メンテナンスのための構造工学入門』
本書では、メンテナンスに必要な構造工学、メンテナンスの実例から学ぶ構造工学といった視点から、
橋梁メンテナンスにおける構造工学の基本についてわかりやすく解説されています。
カバー写真撮影:写真家 山崎エリナ
書籍内容詳細:http://committees.jsce.or.jp/struct/node/33